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東京家庭裁判所八王子支部 平成10年(家)4904号 審判 1999年5月18日

申立人 X

相手方 Y

主文

相手方は、申立人に対し、金282万円を支払え。

理由

第1申立ての趣旨

相手方は申立人に対し、財産分与として金700万円支払えとの審判を求める。

第2当裁判所の判断

1  事実

本件記録並びに申立人及び相手方に対する各審問の結果によれば、以下の各事実が認められる。

(1)  申立人と相手方は昭和45年5月4日に婚姻届を提出し、昭和○年に長女が、昭和○年に二女が生まれた。

相手方は結婚当初は会社員であったが、その後、金属加工業を始めたり、また、会社勤めをするなどしていた。昭和59年頃に相手方は再び埼玉県狭山市内で金属加工業の仕事を始めることとなり、二度目の単身赴任となった。相手方のこの単身赴任は離婚まで続き、他方、申立人は結婚以来専業主婦であり、この間、昭和54年頃から申立人の実母が申立人らと同居するようになっていた。相手方の事業が不振な時は経済的に苦しい状況もあったが、その時を除いて相手方は申立人に対して生活費を送金していた。

(2)  相手方は、従前、申立人の長期入院中の相手方の実母に対する配慮のなさや15年以上単身赴任生活を続けている相手方への妻としての思いやりのなさを感じていたが、平成8年6月の実母の死を契機として、申立人との間の溝が深いことを認識するようになり、同人との修復はもはや不可能と考えて同年12月に申立人に対して離婚を申し出た。相手方は申立人に対して、「仲良くするために離婚しよう。」「生活は今までと変わらない。」などと言って離婚届に署名を求め、申立人は復縁の可能性もあると考えて離婚届に署名した。そして、平成9年1月31日に2人で一緒に目黒区役所に出かけて、協議離婚届を提出した。

(3)  離婚時に相手方が保有していた資産は、株式(b株242万円、a株396万円)、小規模企業共済金400万8465円、○○銀行預金25万9441円及び郵便貯金100万円の合計1164万7906円である。

また、離婚後の平成9年2月から同年12月までの11か月間、相手方は申立人に対して毎月月額35万円を送金し、平成10年1月には向こう2年間の生活費の趣旨で300万円を送金した。

相手方は同年3月末に再婚したが、申立人は同年4月17日に相手方の戸籍謄本をとって初めて相手方の再婚の事実を知り、同日、申立人は当裁判所に対し本件財産分与の調停を申し立てた(平成10年(家イ)第846号)。

(4)  ところで、相手方が代表取締役を勤めていたc株式会社は、平成7年5月1日付けでb株式会社に合併され、相手方は部長待遇となったため、従前の相手方の給与額を維持する趣旨で毎月35万円の給与の補填を受けていた。さらに、離婚後の平成10年1月5日にb株式会社がd株式会社に合併され、b株式会社が解散することとなった。その結果、相手方が従前に受けていた給与の補填がなくなることになり、その調整のため、同日付けで向こう2年間分の給与の補填として、d株式会社から相手方の銀行口座に914万4000円が振り込まれた。

また、相手方は平成10年7月に義父(再婚した妻の父親)と共有名義で狭山市内に土地建物を購入した(但し、登記簿上、土地に関する売買日は同年9月1日、建物の新築日付は同年7月29日)。購入代金6920万円のうち、相手方は上記給与の補填金のうち約800万円と金融機関からの住宅ローンの借入れ3900万円の合計約4700万円を支出し、義父が同人所有の土地を売却して得た代金2300万円を支出し、その出資額に応じて土地建物の共有持分割合をいずれも相手方10分の7、義父10分の3とした。

(5)  申立人は離婚後も実母並びに成人した長女及び二女と共に肩書住所地の公団賃貸住宅に居住し、平成11年1月頃から生命保険会社にパートとして勤務している。相手方は、現在、上記のとおり平成10年7月に購入した住宅に妻、未成年の養子(妻の連れ子)及び義父とともに居住しており、従前の会社に勤務している。

2  判断

(1)  清算的財産分与

<1> 上記1(3)で認定した相手方は離婚時に有していた資産については、これらが清算的財産分与の対象となることについて当事者双方にその評価も含めて争いがなく、本件の証拠によってもこれを認めることができる。

<2> 申立人は、上記1(4)で認定した平成10年1月5日にd株式会社から相手方銀行口座に振り込まれた914万4000円についても、それはcを合併したことや相手方がb株式会社を辞めたことへの見返りであり、退職金あるいは功労金的な性格の金員とみることができるから財産分与の対象となる夫婦共有財産である旨主張する。退職金あるいは功労金が清算的財産分与の対象となるのは、夫婦の一方配偶者の他方配偶者の永年の労働への貢献を離婚時において金銭的に清算するという財産分与の性格からして、離婚時に既に退職金が支払われているか、近い将来に確定額の退職金が支払われることが明らかである場合に認められるべきものと考える。ところで、本件においては、上記1(4)認定のとおり、相手方が914万4000円を取得したのは、離婚後約1年を経過した時点であり、かつ離婚時にはその支給が決定されていなかったものであり、しかも支給の趣旨は勤務先の合供に伴う相手方の爾後2年間の生活補償というものであるから、この支給時期、態様及び趣旨からして、同金員が財産分与の対象となる退職金あるいは功労金に該当すると認めることはできない。他に申立人の主張を認めるに足りる資料はない。

<3> また、申立人は相手方が義父と共有名義で取得した不動産に関して、相手方が義父自身も同人の不動産を処分して購入資金を支出した旨主張したことに対して、義父が処分したとされる土地の所有名義が登記簿上現在でも義父のままであることから、相手方の主張に疑問を懐いている。しかしながら、相手方提出の○○不動産株式会社(義父の土地の買主)作成の書面によれば、同社が平成10年3月21日に相手方の義父から同人の土地を販売用土地として買い取り、同年7月31日に不動産の引渡し及び売買代金の決済をしており、既に転売先も決定しているが、予算の都合上同社に所有権を移転せず、中間省略により所有権を転売先に移転する予定になっていることが認められる。したがって、申立人の上記主張も理由がない。

<4>以上によれば、清算的財産分与の対象となる夫婦共有財産は相手方が離婚時に保有していた資産の合計1164万7906円ということになる。そして、上記1認定の申立人と相手方の婚姻生活の実態を考慮すると、申立人の寄与度は5割と認めるのが相当であるから、清算的財産分与として相手方が申立人に分与すべき金額は582万円(1万円未満切捨て)となる。ところで、上記1(3)認定のとおり、相手方は申立人に対して平成10年1月300万円を送金しているが、これは財産分与の一部清算と認めるのが相当であるから、上記の金額からこれを控除することとする。したがって、相手方が申立人に対して支払うべき清算的財産分与の額は282万円となる。

(2)  扶養的財産分与

相手方は会社員として定収入があるのに対して、申立人は婚姻期間中は専業主婦で離婚後パートタイムの仕事に就労したばかりであることからして、離婚後の申立人の扶養について扶養的財産分与の点が一応検討される。しかし、上記1(3)認定のとおり、相手方は申立人に対して離婚後11か月間にわたり毎月月額35万円、総額385万円を生活費として送金していたことが認められる。したがって、当事者間の長女及び二女は既に成人していること、相手方の単身赴任期間が長期にわたっており、他方、相手方の事業の不振時を除いて申立人に対して生活費の送金がなされていて、婚姻期間中に申立人が特に就労する必要がなかったことなどの申立人と相手方の婚姻生活の実態、相手方の離婚の申し出に申立人が応じて二人で協議離婚届を提出したこと、上記送金中に申立人は不就労の状態であったこと、現在相手方には扶養すべき家族がいること、他方申立人において就労が不可能な年齢ではないことなどの諸事情を斟酌すると、上記の離婚後の金員の支払いをもって相手方の申立人に対する扶養的財産分与は尽くされていると認めるのが相当である。

(3)  慰謝料的財産分与

審判手続において、当初申立人は相手方に対し、申立人が相手方に騙されて離婚したこと等を理由として慰謝料1300万円(少なくとも1000万円)を要求していたが、第2回審問期日において申立人は慰謝料請求を別訴で行う旨述べた。したがって、慰謝料的財産分与の有無については、本件では判断しないこととする。

3  結論

以上によれば、相手方は申立人に対して財産分与として金282万円を支払うべきである。

よって、参与員○○の意見を聴いて主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤原道子)

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